重松清「きよしこ」は少年が自立する物語

これから重松清氏の小説をいくつか読んでみたい。
であれば、氏の「個人的なお話」である「きよしこ」を先に読んだほうがいいだろう。

氏が言うには「私小説」とは違うらしい。
「個人的なお話」とは、氏とよく似た「きよし」という少年の話。
タイトルの「きよしこ」は、主人公の「きよし」がクリスマスソング「きよしこの夜」を「きよしこ の 夜」と勘違いしたところから生まれたキャラクターだ。
きよしは、きよしこのことを遊び相手になってくれるピーターパンか何かのような存在だと勘違いしていた。

だが、きよしこは小学1年生の時、夢の中で現れて以来、現れなかった。
ただ、きよしの側に寄り添っていた。

きよしには、幼い頃から吃音があった。
父親は転勤族で、何度も引越しして転校する度に、きよしは自己紹介でつまずいた。
吃音にもいろいろあるが、きよしの場合は「き」の音を出しにくい。
だから自己紹介で自分の名前を言うときに吃音が出た。

クリスマス会では、意地悪な同級生にわざと自己紹介させられた。
同じ吃音がある子と仲良くなったが、すぐまた引越しした。
言いたいことが言えずにたくさんの誤解を受けた。
吃音にまつわる悲しい話、くやしい話が多い。

↓ 吃音のためうまく自己紹介ができずに悲しむ少年 by AI

それでも、きよしはまっすぐに育ち、高校3年生になる。
受験勉強に勤しむある日、彼女ができた。
地元大学生の彼女は、吃音のきよしを助けてやりたかった。
きよしが喫茶店で「コ」と言えばコーヒーを頼むなど、何かと先回りして言いたいことを代弁してくれる。
(おそらく山口県の)地元大学に入学すれば彼女の後輩になるということで、受験が終わったら彼女の下宿に招待してくれるという。
(そこが羨ましかった)

だが、きよしは東京の大学を選んだ。
しかも、先生になることを目指す。
生徒に何かを伝えたい。

理由は分からないが、一人でできるところまでやってみたいということだろう。
(私も昔、東京に行きたいと思い、実際に行った。
最も華やかで最も住みにくいチャレンジングな街だった。
だからやる気のある若者を惹きつけるのだろう。)

それに対し、彼女はきよしを助けることが良いことだと思っていた。
一人で生きてみたいきよしから見れば障害だった(言い方が悪いか?)
彼女と別れて、きよしは東京へと旅立った。
おしまい。
↓ 東京で暮らす大学生 by AI