小学5年で転校して人生が始まった、と大げさに書いてみた。
小学4年までは田舎の小さな学校に通っていた。
同級生は私を含めて5人、男子だけ。
全校生徒数も20人少々。
しばしば、複式学級になった。
上級生または下級生と同じ教室で別の授業を受けた。
先生は、私たちに10分くらい教えて、その後は漢字の書取りや計算問題をさせた。
その間に別の学年に教えた。
その繰り返し。先生は、段取りを考えるのに手間がかかったろう。
私たちは、田舎特有ののんびりした雰囲気で平和な日々を過ごした。
喧嘩やいじめはほとんどなかった。
小学5年のとき、引越し、転校した。
新しい学校は生徒数が千人を超えていた。
クラスの生徒は40人ほど。
↓ 大きな学校に転校して戸惑う小学生 by AI
(私たちは田舎っぽかった)
しかも男女半々。まるで日本の縮図!
同級生は、性格も行動も興味の対象も様々だった。
これは単に人数が増えたからではなかったと今は思う。
皆の個性がぶつかり合っていたせいか、教室はいつも騒がしかった。
前の学校とは全然違う集団の中で生きている、という感じだった。
しばらくは、変化に戸惑い大人しくしていたが、徐々に慣れていった。
生意気で運動音痴な転校生は時にいじめられた。
それでも、大事にしたい思い出はいくつもある。
重松清氏「小学五年生」を読んだ。
短編集で、全て5年生の少年が主人公だ。
重松氏の経験が盛り込まれているのだろう。
氏は子供の頃、親が転勤するのに合わせて何度も転校した。
しかも、吃音があった。
いじめや辛いこともあったようだ。
(氏の「きよしこ」に書いている)
だが、あとがきで以下のように述べている。
少しキャメラを引き気味にして、小学5年生の少年がたたずんでいる風景を描きたかった。いつの時代でも、どこの街でも、小学5年生の少年のいる風景は、決してバラ色に光り輝くときばかりではないにしても、それでもやはり、かけがえのない美しさを持っていてほしいと願っているし、持っているはずだ、と信じてもいる。
文庫本の帯のコピーは、
「人生で大事なものは、みんな、この季節にあった。」
これは氏が作ったコピーではないだろうが、氏も同じ思いだろう。
この本の17作品には、少年の喜びと悲しみ、希望と失望、葛藤、恋心など、あらゆる心情が盛り込まれている。
かつて男子小学生だった人は皆、わくわく、どきどき、ハラハラしながら読めるだろう。
かつて女子小学生だった人は、あの時のアレはそういう意味だったのか!と楽しめるだろう。
17作品のうち、「どきどき」はバレンタインデーの少年の心情を描いたもの。
重い作品が多い中、これは単純に楽しめる。
自分の経験に照らして、ニヤニヤが止まらなかった。
以下、ネタバレ。
少年は、年賀状をもらった女子からチョコをもらえるかも、と期待する。
当日、学校に行っても頭の中はそればかり。
だが、机、ロッカー、下駄箱、カバン、どこにもない。
家に帰っても届いていない。
夜更かしして0時まで期待し続け、日が変わったら憎まれ口をたたく。
「はい、おーしまい。ブ〇、バイバーイ」
私は思わず吹き出してしまった。
青春の始まり。人生の始まり。
全ての少年少女に幸あれ。