東野圭吾「手紙」

遅れながらも世の中の動きに付いていかないと・・
東野圭吾氏の小説を初めて読んだ。

東野氏の経歴を調べたら、学生時代は国語が苦手で、本も読んでいなかった。
高校時代に本を読んでから小説を書き始める。
大阪府立大学電気工学科卒業後、現在のデンソーでエンジニアの仕事をする。
数年後、デンソーを退社し小説家に転身。

変わった経歴だなあと思った。
もともと、文章を書く能力はあったのか?

今回は「手紙」を読んだ。
内容はネットでばれているしドラマ化もされているので、ネタバレをご容赦いただきたい。

https://www.allcinema.net/cinema/325646

親のない兄弟が主人公。
兄は、弟を大学に行かせるため強盗殺人して逮捕され、懲役刑に。
弟は、何とか高校を卒業し自立するも、常に兄の犯罪歴がつきまとう。
ネットの時代、人の犯罪歴を調べるのは簡単だ。
弟が大学生活、恋愛、就職の場面で人生の階段を駆け上ろうとするとき、どこからか兄のことがばれてチャンスを逃してしまう。
弟の心は兄から離れていく。

唯一、兄の犯罪を知っても逃げずに寄り添ってくれた女性と結婚する。
しかし、女性と子供にも影響が及ぶ。

弟は、正々堂々と生きていれば兄とは関係ないことを世間が認めてくれると信じていたが、そうはいかない。
人々は、犯罪者の近親者とどう向き合えばいいか分からない。
表立って誹謗中傷はしないが、なるべく避けようとする。
その意識が就職や結婚での差別へと繋がっていく。
そして弟は兄との絶縁を決意する。
最後には・・・

題名の「手紙」は、獄中の兄が弟に出した近況報告であり、弟が兄に出した絶縁状であり、また・・・でもある。
続編があってもいいような終わり方になる。

小説に書かれているように、この問題が厄介なのは、皆、兄は強盗殺人犯だが、弟に罪はないと考えている点。
それでも、誰も弟に近寄ろうとしない。
これまで親しかった人も距離を置く。
小説では距離を「壁」と表現している。
皆は壁の向こう側でこれまで通りのふりをする。
弟の家族にも同じことをする。
皆、差別の意識はない(申し訳ないくらいには思っている)。
それがまた厄介な点。
その無意識の壁が、就職や結婚では差別に化ける。

ジョン・レノンの名曲「イマジン」が何度か出てくる。
弟が好きでよく歌う曲。
差別や偏見のない世界を作りたいという歌詞はないが、弟の思いはそれだろう。

You may say I'm a dreamer
But I'm not the only one
I hope someday you'll join us
And the world will be as one

少しでも多くの人が同じ思いになることを、未来への希望としたいのだろう。

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