重松 清 「とんび」

重松清の小説「とんび」を読んだ。
こちらは文庫本の裏表紙に掲載のあらすじ。

昭和三十七年、ヤスさんは生涯最高の喜びに包まれていた。愛妻の美佐子さんとのあいだに待望の長男アキラが誕生し、家族三人の幸せを噛みしめる日々。しかしその団らんは、突然の悲劇によって奪われてしまう-。アキラへの愛あまって、時に暴走し時に途方に暮れるヤスさん。我が子の幸せだけをひたむきに願い続けた不器用な父親の姿を通して、いつの世も変わることのない不滅の情を描く。魂ふるえる、父と息子の物語。

美佐子さんが亡くなってから男手1つでアキラを育てる話。
ヤスさんは不器用で武骨で照れ屋。
出来のいいアキラと比較して「とんびが鷹を産んだ」と言われる。
ヤスさんの愛情に包まれ、周りの多くの人に支えられ、アキラはまっすぐに育つ。
ヤスさんは幼い時に親と別れた。
アキラの育て方に悩み、不要なトラブルを起こしてしまう。
だが、いつも周りの人がうまく収めてくれる。
子供の頃からお姉さん代わりだった飲み屋のたえ子さん
幼馴染で飲み仲間の照雲さん
照雲の父親でヤスさんの父親代わりでもある海雲和尚など。
頑固なヤスさんの暴走を止めるのに、周りの人も全力でぶつかっていく。
読者から見れば、そのハチャメチャぶりが面白い。
周りの人に支えられながらアキラを育てることで、ヤスさんも成長する。

登場人物は、親との縁が薄い人が多い。
親と死別、あるいは生き別れになった人。
ヤスさん、美佐子さん、アキラ、たえ子さんの子・・・
片親に、あるいは血の繋がらない親に育てられても、皆、幸せになっている。
親がなくとも、親代わりの人が愛情を注げば、子は幸せになる。
それが1つのテーマだろう。
町ぐるみ、地域ぐるみで子供を育てることが大事。

昭和の後半。
古き良き時代と言われる時代。
本当にそんな良い時代だったのかは知らないが、養子縁組がまだ盛んだった。
その点で家族構成は今より柔軟だった。
昔を美化したところはあると思う。
小説に出てくるのは温かい人ばかりだ。

アキラの子供時代から数十年経った。
個人個人で生きていく時代。
困っている人がいても手を差し伸べにくい時代。
生きづらい時代になったのかなあ。
もっと楽しくやる方法はないのかなあ。